○末毛織
活気を無くした繊維の町。
個人経営の工場の多くは廃業し、町中に廃墟のような建物が点在している。
ある日の早朝、工場の一つに入ってみた。
そこは、ウールの糸を織って生地を作る、織布工場だった。
朝日を浴びる、広い空き地に面した工場。
この空き地にも、かつては繊維関係の工場があったのだろう。
織布の機械はなく、ガランとしている。
小道具は、色んなものが残っていた。
木で作られた受電設備。
このカラフルな道具はというと・・・
糸を巻き付けるための棒だった。棒の色が、糸の色を表している。
上に乗っかっている紺色のが、ほぼ未使用のチーズ。
織布してから染めるのではなく、先染めの糸を使って織っていた。
糸が細いので、ニットではなく織物を作っていたのだろう。
スーツとコート地が、主力だったと推測される。
スーツ地と思われるものが、放置されていた。
国産のスーツ地だから、末端価格はかなり高価な筈だ。
イタリアやフランス製のブランドスーツもいいのだろうが、日本製の方が出来が良い。
落ちていた伝票を見ると、やはり大手ウール生地メーカーと取引があった。
昔の工場は、最大限自然光を取り入れるため、独特の形をしている。
工場らしい工場のというか、この形がとても好きだ。
朝日が昇り始め、格子状の影を作っていた。