解体中の壁が倒壊し女子高生が死亡
2010年10月14日午後3時35分頃、岐阜市北一式の「かんぜん」工場解体現場において、建物北側の壁が突然市道に倒れる事故があった。
下校途中に自転車で現場を通りがかった高校2年の女子生徒が下敷きとなり、搬送先の病院で死亡が確認された。
建物の四方の壁を解体する作業をしていて、北側の壁(高さ11メートル、幅17.5メートル)だけが残っている状態だった。
解体工事を行っていた「丸萬後藤興業」(岐阜市)の話では、壁を南側に倒そうとしたが障害物があったため倒すことができず、固定などせずそのまま放置していたという。
事故発生日の夜、現場を訪れた。
これは、同じ敷地内で解体途中の隣の建物。
現場周辺ではマスメディアがたむろし、事故によって損傷した電線の修復作業が続けられていた、
夜10時を過ぎると、各メディアが生中継を始めたため、あたりがテレビ局のライトで照らし出された。
事故により倒壊した壁。
高校生はこの道路を自転車で走っていて、壁の下敷きになった。
現場周辺の道路を占拠するメディアの車両。
場所を変えて、丸萬後藤興業の本社前へ。
こちらでも、複数のメディア関係者が待ち構えていた。
事故を起こした丸萬後藤興業の専務と重機御オペレーターの2人が業務上過失致死容疑で起訴され、事故は事件へと変貌した。
事故後の記者会見で、同社の社長がポケットに手を突っ込んだ状態で現れるなど、真摯に反省しているようには見えなかった。
その背景には、業界全体を覆うコスト意識と納期至上主義にあると思う。
今回の事故は、法令の定めた通り、ワイヤー等で壁を固定していれば防ぐことができた。
しかし、それには人件費を中心としたコストもかかるし、時間もかかる。
発注主は解体にお金をおかけたくないので、少しでも安い見積もりを持って来た業者に選定する。
当初予定に無かった安全対策を実施することで、その仕事が赤字になりかねないし、納期遅れが発生するかもしれない。
そのため、多少のリスクは承知の上で、危険な作業に手を染めざるを得ないのだ。
これは、同社に限ったことではない。
大手ならともかく、中小零細の解体業者なら、多くの業者が身に覚えのあることだろう。
そのため、同社としては「たまたま壁が倒れた時に女子高校生が通りがかって、運が悪かった。」という考えがあるんだろう。
確かにそうかもしれないが、全国で同じように解体を請け負っている業者と、コストと納期のことしか考えていない発注主のためにも、厳罰で挑んで欲しい。
他の業者と発注主が、少しでも真摯に安全と向き合うきっかけになってほしい。
2013年7月、業務上過失致死で起訴された専務と重機オペレーターの判決公判があった。
禁固1年6ヶ月と2年の求刑に対して、判決はいずれも禁固1年2ヶ月の実刑だった。
通常、2年以内の求刑の場合、慣例的に執行猶予が付くのだが、それが付かなかった。
厳しい判決と言えるだろう。
発注主の責任が問われなかったのには不公平感が否めないが、今後、全国の解体現場で同じような事故が再び起こらないことを祈るばかりだ。
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