中津川女子中学生殺害事件
はじめに・・・
2006年4月、岐阜県中津川市のパチンコ店廃墟内において、中学生の女子生徒が殺害されるという痛ましい事件が発生した。
岐阜県内の廃墟を趣味のフィールドとしている者として、このような事件が発生した事をとても残念に思う。
そして、04年に女子高生が千葉県内の物件「活魚ホテル」で殺害された時のように、廃墟全般に対して、過剰な反応が見受けられる。市街地に近い廃墟はヤンキーの溜まり場になることが多く、物理的以上に人的に危険な場所であることは間違いない。
この事件を機に、岐阜県および岐阜県警は県内全域で廃屋の緊急調査をはじめた。
しかし、事件・事故発生率を無視して廃墟対策を進めるのは、非常に危険な対処法だ。象徴的な一つの事件にとらわれ、より危険性の高い、緊急に対策をとるべき事案が放置されてしまう可能性がある。
廃墟は危険だ。だから、対策を講じるのは当然だろう。しかし、常に優先順位は考えなければならない。防犯や事故防止、環境問題など「人の安全」を考える時、統計学は絶対に無視してはならない。
例えば、環境問題はなぜ考える必要があるのか。それは、全人類が滅亡する確率が、どんなに少なくてもゼロではないからだ。「1/1000000の確率で人類が滅亡する」のと、「1/100の確率で人が死ぬ」のとでは、前者の方がはるかに重要な意味を持つからだ。また、「温暖化に伴う洪水や疫病等で死ぬ確率」や「オゾン層破壊により若年で病死する確率」などと「交通事故で死ぬ確率」「隕石に当たって死ぬ確率」といった様々なリスクを全て数値化し、優位性を決める。
とまあ、学生時代に環境関係の学部を専攻した受け売りだが、これが理に叶ったやり方だと思う。
さて、子供が廃墟で事件に巻き込まれる確率と交通事故に遭う確率、どっちが大きいだろうか。人間が若年で亡くなる事由のトップは、ダントツで交通事故だ。さらに、川や海で事故に遭う確率、病気、自殺・・・子供の安全を考えるとしたら、廃墟対策が有効な手立てだと言えるだろうか。
県や県警のエリートが、そんなことも分からない筈はない。根拠の無い、合理性の無い主張がメディアで垂れ流され、それが世論になるのが、今の日本だ。県や県警は、それを承知の上で、世論(メディア)へのパフォーマンスのために、演じているのだろう。
いくら廃墟が好きな人間でも、それが子供の安全を守るためであったら、閉鎖されるなどしても仕方がないと思う。しかし、そうではない。むしろ、廃墟対策にばかり目を向けさせ、問題の本質から目を逸らしてしまう危険がある。
本当に子供を守るためには、何をするべきなのか。今一度、問い直したい。
現地に赴いたのは、事件発生から1週間と少し経ってからだった。
連日、ワイドショーの中継で賑わっていた場所だが、既に静まり返っている。
報道関係者も、野次馬も、一人もいない。
私としては、かえってホッとした。
パチンコ屋の駐車場にある中華そば屋。
見て分かるように、同じ造りをしている。
当然、これも物件だ。
駐車場の入り口から本体、中華そば屋まで、全てが城を模している。
元市議の経営者は、なぜそこまで城にこだわったのか。
それにしても、パチンコ屋、セレモニーホール、ラーメン屋・・・
全てが「城」にミスマッチだと思うのだが。
このあたりにも、この城が物件になる要因があるのではないだろうか。
国道沿いには、花が添えられていた。
若くして散った命に敬意を捧げ、手を合わせて一礼した。
駐車場に入り、本殿を眺める。
外観だけでは、これが廃墟とも、殺人事件現場だとも察しがつかないだろう。
駐車場の反対側には、パトカーが1台だけ停まっている。
中華そば屋の物件、
最近では、こうした「和」を感じさせるパチンコ屋も増えてきた。
「報道関係の方、ご遠慮ください。」
その時、パトカーから一人の警察官が降りてきた。
そして、まっすぐ自分の方へ向かって来る。
第一声は、「ブンヤさん?」だった。
下手に肯定したら、マズいことになるかもしれない。
それに、嘘を言ってはいけない。
適当に話を合わせ、私は学校の先生になったようだ。
とにかく、駐車場への立入と撮影の許可を貰った。
「立入禁止」の落書きの前に、県警のテープが張られている。
今となっては、本当の立入禁止だ。こちらが、セレモニーホール。
パチンコ屋の方は城と似つかわしくない外観だが、物件には見えない。
よく見るとガラスの一部が破られている。
ここから出入りしていたのだろうか。
裏口も、しっかり閉まっている。
外から見た限りでは、管理物件のレベルだった。
内部が荒らされていたり、殺人事件が起きるようには見えなかった。
ここには、猫が住み着いていた。
県警の立入禁止テープの内側に、キャットフードが置かれている。
近くの人が毎日エサをやってるらしい。
今後、廃墟を趣味とする者としては、非常にやりにくくなるだろう。特に、ここ岐阜県では。
かといって私は足を洗うつもりはないが、今まで以上に慎重に行動せざるを得ないだろう。
「人は見た目が9割」という本が売れている。この本の内容と意味は違うが、私はある意味その通りだと思う。勿論、顔や身体的特徴のことを言ってるのではない。
廃墟内で地域住民や管理者、警察官と出くわした時、まず何を見て判断されるか。それは、身なりだろう。服装、髪型(色)、ヒゲ、持ち物といったもので、人は初対面の相手を判断する。それがいいことかどうかという議論は関係ない。人間の心理として、それは仕方の無いことだからだ。
そして廃墟内であれば、「怪しい人」という先入観が入るので、少しのことでも大きくマイナスに見られてしまう。派手で相手に威圧感や恐怖感を与える格好をしていれば、何をどう取り繕ったところで意味が無い。そうした心理を利用して、空き巣犯はスーツを着ていることが多い。プロフィールにも書いたが、私も、それに習っている。今後は、さらに徹底したい。
事件発生から間もなく、犯人が逮捕された。
逮捕されたのは、仲の良かった男子高校生ということで、一層後味の悪い事件となった。
某巨大掲示板では、被害者・加害者ともに叩かれている。
どのようなバックグラウンドがあって、どんな性格だったかなんて、関係ない。
一つの若い命が奪われたのだから、これほど残念なことはない。
これからの日本を担う、若い命が。
日本の経済的・社会的損失を考えれば、被害者のブログの内容を見てあーだこーだと言える人は、平和でいい。
最後になったが、被害者のご冥福を、心よりお祈り申し上げる。
事件の現場のページにもどる