白装束集団「パナウェーブ」追跡記(後編)


○2003年5月8日、長野県松本市 林道

先回りといってもラジオニュース以外の情報はなく、予想するよりほかありませんでした。ルートを予想し、3時間張り込んでも一向に来ないため、さらに進んでみると、林道で休憩していました。


なんと驚くことに、止まっている車列の横を、一般車両に通らせていました。片側交互通行とし、パトカーが先導して。数キロ手前で通行止めにする岐阜県警では考えられないことです。フジテレビのリポーターに同乗させて欲しいと頼まれたため、彼を乗せて集団の横を一往復しました。


濃霧の中、望遠レンズで撮ったため真っ白でしたが、画像処理して何とかこの状態・・・


わけあってもう一往復していたら、車列が先に出発してしまいました。彼らが去った後には、回収班の人たちが白い布を集めていました。


○2003年5月8日、長野県松本市 県道67号線



地図で旧道を見つけ、車のない道を走って集団を追い越し、先回りに成功しました。


道の周辺には住民があふれ、近くの店も一時閉店状態となり、店員も見に来ていました。沿道では手を振る住民もたくさんいて、歓声も上がっていました。この「歓迎」ぶりに、パナウェーブの人たちも会釈して応えていました。


一行を見送った後、近くの店で遅い昼食を取ろうとしましたが、メニューのほとんどが売り切れ。白装束が通った後は、どこもこんな感じでした。


○2003年5月8日、「長野道」岐阜県境



さらに追跡し、時速10キロのノロノロ運転が3〜4時間続いた時、有料道路「長野道」の阿房トンネルの中で完全に動かなくなりました。長野県から岐阜県に入り、岐阜県警による検問でした。


まさかの、本線上での検問でした。高速道路上を1.5キロほど歩き、検問の様子を見てまた歩いて車に戻りましたが、まだまだ余裕でした。結局1時間半ぐらい止められていて、追尾していた長野県警の人たちもあきれ顔でした。報道の方は深刻で、トンネル内でずっと止められているため、中継の時間に電波が飛ばせないとか、新聞の早版に記事が送れないといった声が聞かれました。


一番悲惨なのは、何も知らずに大渋滞に巻き込まれた一般人です。松本から高山まで、距離にして70キロの間を8時間かけて走らされたわけです。途中でトイレにも行けず、有料区間の料金はきっちり払わされて。せめて、岐阜県警が料金所を出てすぐの駐車場で検問をやってくれていたら、所要時間は半減していたはずです。私も、家に着いたのは午前2時半で、翌日は朝5時から仕事でした。岐阜県警・・・


○2003年5月10日、福井県福井市五太子町小学校グランド



8日に岐阜県に入った一団は、途中荘川村で休憩しつつ、9日、福井県に入りました。途中トラックが脱輪するハプニングがあったものの、順調に進み、同日夜に本拠地のある福井市五太子町に到着。「研究所内が未舗装のため電磁波が発生し、入れない」と主張したことから、近くにある休校中の小学校グランドに誘導しました。


集団の旅の最後を見届けるため、福井に行きました。小学校前には多数の報道陣とやじうまが集まっていましたが、集団が移動していた時に比べれば、かなり減っていました。


白装束の人が外に出てくると報道陣が取り囲み、写真を撮りまくってワイドショーのリポーターが執拗にマイクを向ける。見ていて何だか気の毒になりました。



おまけ:琵琶を弾いているキャラバン隊員がいました。


○5月10日、福井県福井市五太子町パナウェーブ研究所




研究所の方は、全くのノーマークに近く、たまに報道関係者ややじうまが来ては去っていく。若者の集団が「ステッカーくれ!」などと騒いでいたり、研究所の前で記念撮影していたりしました。


山から見た施設の全景。意外と狭いように見えますが、地下が広いようです。


研究所には頻繁に車が出入りし、物資の運び込みや、小学校との人員の入れ替えを行なっていました。


車が出入りするたびに施設の人が門を開け閉めしていて、なかには気さくに話しかけてくる人もいました。


パナ研を出て行くごく普通の乗用車。


○2003年5月10日、福井県福井市五太子町町内会長宅前




町内会長宅を訪れるパナウェーブの代表者ら。ここも報道陣でいっぱい。



この日、一年以内の施設閉鎖などの条件に合意し、キャラバン隊の受け入れが正式に認められました。


○おわりに・・・
 この白装束集団をずっと追いかけてきて、危険なカルト集団かと聞かれれば、ノーと答えます。まずは、組織的な問題が挙げられます。まずは宗教組織である「千乃正法会」が基幹にあり、その絶対的な指導者である千乃裕子が「左翼ゲリラに電磁波攻撃を受けている」と言い出しましたため、それを研究する科学班が組織されました。これが「パナウェーブ研究所」です。
白装束など全て白ずくめにするのも全て千乃裕子の指示で、最初に千乃裕子が電磁波云々の話を持ち出した時、疑問を唱える信者もたくさんいたようで、一気に組織が弱体化します。この頃から、千乃裕子の言動がおかしくなったり失禁するようになり、私個人的には、痴呆症がはじまったのではないかとも思っています。現在の信者、キャラバン隊員の中にも、千乃裕子の「異変」に気づいている人は少なくないと思われ、これ以上変なことを言い出したら、誰もついてこないでしょう。
 今回、特に思ったのは、情報の恐ろしさです。マスメディアは、嘘はつきませんが、公平ではありません。特定の情報だけを流し、その逆の情報を隠す。これは、日常的に行われています。現場の情報よりも、東京の情報が優先されます。記者クラブによる画一取材に加え、警察有力者宅への夜回り、警察発表を一字一句変えずに報道する。こうして、松本サリン事件の誤報が作られました。河野さんの教訓は生かされず、今でも全く変わっていないんだなあ、と感じさせられました。
マスメディアが大挙して押し寄せることなく、警察も静観していれば、不気味ながらも林道は通れたし、パナウェーブも鏡の盾を振り回すことはなかったでしょう。騒ぎが騒ぎを呼び、パナウェーブのキャラバン隊を都市部におびき出すことになりました。ルートとなる自治体は町を上げてのお祭り騒ぎで、観光地なら名前を売る絶好の機会となり、経済効果もあったでしょう。ただ、パナウェーブは10年来同じ活動を続けてきただけで、たまたま運悪くマスメディアの餌食になった、とも言えます。
 そして、警察庁長官や首相、国土交通大臣の発言、大泉村の対応はどうだったのでしょうか。白装束で、確かに不気味な集団ではあります。しかし、道は通れる幅を残してあるし、危害を加えてくることもありません。電磁波云々も、信仰・信条の自由の範囲でしょう。車の整備不良や周りへの迷惑を挙げるのならば、先に暴走族を取り締まって欲しいものです。長官や大臣の発言は、不気味だから排除し、なるべくなら取り締まる、と聞こえます。ならば、異国の真っ白な民族衣装を着た人たちを排除し、取り締まるというのでしょうか。また、大泉村は、変わり者は入村を拒まれるようです。法律的には、大泉村の方が取り締まられるのではないでしょうか。
今回の騒動、全てはメディアの流した情報が原因となっているのではないかと思います。情報の東京一極集中と画一報道に、真実の危うさを実感する出来事でした。




おまけ パナウェーブの車たち


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